成熟した比類なき歌唱表現を存分に披露
豪華ゲストも出演し、悲願の日本公演は格別の夜に
学生時代に日本語を学ぶほど親日家であるものの、日本ではこれまでメディア出演時やイベント、ショーケース・ライブなどで歌声を披露してくれていたが、コロナ禍で中止になった公演もあった事で、今回が意外にも日本初のフル・コンサートになったジョシュ・グローバン。本人も悲願の開催と語っていたこの来日公演は、タイトルにキャリア25年のハイライトを凝縮したベスト・アルバム『GEMS』を冠したものとなっており、その収録楽曲達を惜しみなく披露するオール・タイム・ベスト公演でありながら、今後の新たな挑戦に向けたプロローグも垣間見せ未来も感じさせるものに。さらにスペシャルゲストとして山崎育三郎(両日出演)、そしてサプライズで発表となったYOSHIKI(21日のみ)も出演と日本が誇るアーティスト達も登場し、ジョシュの想いの強さに呼応するような贅沢な夜となった。
ストリングスなどのオーケストラ、ドラムやベースなどのバンド・セットが立ち並ぶ豪華なセッティングとなったステージに奏者たちが立ち並ぶ中、定刻を迎えるとショーのオープニング曲である「You Are Loved」の演奏がはじまる。そして舞台袖から歌唱を始めていたジョシュが姿を現すと、万雷の拍手が場内に巻き起こる。そして、伸びやかで美しいその歌声が場内に広がっていくと柔らかな雰囲気に会場は包まれていく。
続く「The World We Knew」を歌う前には「トウキョウ!」と簡単に日本語で挨拶をしたが、歌唱後には「ありがとうございます。元気ですか?私の名前はジョシュです」としっかりと日本語で挨拶。その後は英語も交えて、これまで日本では小規模なショーをするのみだったという事や、コロナでの過去の公演中止に触れつつ、「ちらし寿司が好み」だという日本通ぶりもうかがわせた。そして、この困難な時代に音楽との繋がりを持っていて欲しいと「Pure Imagination」を披露。さらに楽器に幼少期に触れられた事についての喜びについて語りつつ「Granted」、さらには学生時代などの辛い時にピアノと共にいられた事で救われたというエピソードも語ってくれた中「February Soung」を自身のピアノ演奏と共に歌い上げる。
中盤にはジョシュがドラムの演奏を行うシーンも。非常にキレのあるグルーヴィーなドラミングをみせ、バンドのドラマーと共にその演奏で盛り上げる。「ピアノとドラムができると僕のヒーローのYOSHIKIみたいだね」と笑ってみせてもいた。
そして、大きな見せ場の1つとして、スペシャル・ゲスト山崎育三郎が登場。山崎からジョシュへの投げキッス講座などで場を盛り上げつつ、事前に行われていた各種インタビューでもジョシュが語っていたように、この日「この先の道」を初めてライブで披露。日本のためだけに録音したこの楽曲を日本語版のデュエットで届けてくれるという、まさに今回の公演だからこそ実現した特別な形でパフォーマンスしてくれた。ジョシュ自身イタリア語など英語以外の歌唱はこれまでも行なってきているが、日本語という独特な言語でも持ち前の歌の力は削がれることなく、しっかりの言葉一つ一つを紡いでくれ、表現者としての懐の深さをみせつけてもいた。
さらに2人は共に実写版の映画『美女と野獣』で野獣役として歌唱を務めた「Evermore / ひそかな夢」を英語・日本語でマイクリレーをしながた歌い上げる。”野獣”同士の共演という図式となり、取材でジョシュは「ビースト対決になるね」とおどけて話していたが、2人の歌声は楽曲の切ないテーマを感情豊かに、異なる言語でありながら、しっかりとキャラクターがもつ物語を表現しており、対決ではなく見事な協調を遂げる。最後の最後には英語で声を重ねる呼吸もピッタリのハーモニーも見せてくれ、圧倒的な“美しさ”が生まれる奇跡のような瞬間を見せてくれていた。

日本の劇場文化の浸透についても語り、ミュージカルからの楽曲も歌うよと『イントゥ・ザ・ウッズ』、『スウィーニー・トッド』からの曲をメドレーで披露するなど、自身のキャリアの中で重要なミュージカル俳優としての一面ものぞかせてくれた。
代表曲の1つでもある「To Where You Are」の歌唱前には、若くしてデビューした頃は人生経験が少なかったが、年齢を重ね様々な経験をした事でより想いを込めて歌えるようになったと語り、真っ直ぐに歌うだけではない、深みを感じさせる歌唱を披露してくれた。
このツアー後に映画音楽を集めたアルバムを準備しているという事で、『ゴッド・ファーザー』のテーマ「Brucia La Terra」『007』シリーズの「Skyfall」をお披露目。これまであまり歌ってこなかった、憂いやダークな世界観を持つ楽曲達もしっかりと彼らしくドラマチックに歌い上げ、一足早く彼の新章を目撃できた事も喜ばしい瞬間となった。
そして、本編のラストには彼の圧倒的な代表曲「You Raise Me Up」。優しく伸びやかな歌声をたっぷりと聴かせ世界を癒すと称された歌声の本領を発揮してくれた。
アンコールを求める割れんばかりの大きな拍手が場内に巻き起こると、足早にジョシュがステージへ戻ってくる。そして、「ヒーローであり、マルチな才能を持ち、長年にわたって活躍しているレジェンド」と、急遽ゲスト出演が発表となったYOSHIKIを呼び込む。
10年ほど前にサンダンス映画祭出会ったという所から親交が生まれ、この共演が実現したという経緯も披露しつつ、演奏したのは「ENDLESS RAIN」。演奏はYOSHIKIが奏でるピアノのみ。その旋律とジョシュが再び日本語も交えた歌唱を披露し、世界で活躍する2人が誰もが知る楽曲に新たなページを加え、電撃的に決まった共演は、この公演を更にスペシャルなものとする大きな見せ場となった。YOSHIKIは4月のCLASSICAL公演に先立ち日本のオーディエンスの前でその演奏を見せる貴重な場面を作ってくれた。

公演最後の1曲は「Bridge Over Troubled Water」。オーケストラ、バンド、クワイヤーも揃い最後にはまさに大団円という盛り上がりをみせ、こうしてジョシュ・グローバンの日本初のフル・コンサートは幕を下ろした。
実現まで長らくかかったフル・コンサートではあったが、若くしてスーパー・ヴォーカリストとして名を馳せた彼が、年齢と人生経験を重ね円熟味を増した事で、より楽曲のテーマを芯から表現する事ができるようになっており、一層観客たちと心を通わせるパフォーマンスを見せてくれた事は大きな喜びであった。
続く22日の公演でもその歌声と愛、そして日本への感謝の心に満ちた、温かなステージを期待したい。
Photo:Masanori Doi